ハウライトパズル小説

ハウライトパズル　　──序──

　影が、渡る。

　「──ねえ、知ってる？」

　「何を？」

　イギリスはウィンチェスター。

　その外れに静かに佇む養護施設。

　「ゆうべからワイミーさんが来てるんだって」

　「へえ！　久しぶりだね！」

　「じゃあ、あいつも来てるのかな」

　「あいつって？」

　草木は青々と繁り、気持ちのいい風が、それらとややクラシカルな外観を持つ建物のあいだをすりぬけていく。

　そしてその影もまた、その風と、やわらかい陽射しの隙間をくぐりぬけるように、音もなく渡っていく。

　「あいつだよ、あいつ」

　「ぎょろ目で猫背の、変なやつ」

　「一応、ワイミーさんの付き人ってことになってるらしいけどさ」

　「あれでも、ハウスの卒業生なんだろ？」

　「ハウスが『今の』ハウスになる前のね」

　広大な敷地の

　だが、世界の片隅の

　どこか時が止まったような

　どこか未来へ早送りされてしまったような

　そんな場所の一角を

　急ぐでもなく

　ゆるやかすぎるほどでもなく

　おのれ自身が一陣の風であるかのように、ただ飄々と、影が渡っていく。

　「落ちこぼれで結局なんの仕事にもつけなかったから、付き人ってことにしてワイミーさんが面倒見てやってるんだろ」

　「優しいからな、ワイミーさん」

　「『前の』ハウスの出身者なら、ワイミーズ・ネームは無いんだな。……なんて名前？」

　影が、渡る。

　ひょろ長い、猫背の影が。

　「たしか、エラルドなんとか」

　「ローライト、じゃなかった？」

　「そうだそうだ。──でも、僕らはこっそりこう呼んでるんだ」

　「ERROR──『エラー』って」